
球春。
新たな季節到来を告げる息吹。
選抜高校野球は今年で93回の歴史を数えます。
これまでに行われた様々な名勝負、印象に残るシーンをふりかえるとともに2021の展望、優勝校予想をさせていただきます。
選抜高校野球の歴史
第1回大会
第1回大会が開かれたのは1924年(大正13年)。
当時、大変に人気を博していた夏の高校野球を受けて大阪毎日新聞社が主催。
全国から8校が出場し、名古屋市の山本球場で熱戦が繰り広げられました。
初代優勝校は香川の高松商業です。
怪物江川卓(すぐる)

確かに、まだ木製バットの時代だった、というのはあります。
でも、この人以上に「漫画の世界ですやん!」級の怪物ぶり大活躍をした選手ってこの長い高校球史に1人でもいたのでしょうか。
この方が高校野球で活躍していたのは、はっきり言って私が生まれる前です。
でも、その凄すぎるインパクトは伝わってきますよ。
戦慄というか。
脱帽というか。
目について仕方ありません!
その人こそ誰あろう、今は野球解説者でおなじみ、当時、作新学院(栃木)投手、江川卓です。
動画で見るだけでも豪快すぎるストレートと切れ味の鋭いカーブが持ち味。
打てないとかそういった話ではありません。
まずあのスコアに度肝を抜かれます。
1年の予選からノーヒットノーランのオンパレード。
毎試合のように2ケタ奪三振。
当時もかねてから全国のファンの間で「すごい」「すごい」とささやかれてはおりました。
ただ、2年夏まではあと少しのところで出場を逃し続け、そして、ついに3年の春、1973年第45回大会にその悲願は成ります。
で、持ってる人はやっぱり持ってるものです。
なんと、1回戦の相手は優勝候補である強打の北陽(大阪)。
しかも、開幕直後の第1試合。
注目カードに甲子園球場は超満員です。
さて、「プレイボール!」となったのですが、おそるべし、江川卓。
なんと初回から敵のバットにボールを一度も触れさせることもなく3者連続奪三振。
……
4回2死まで11者連続三振。
……
終わってみれば圧巻の19奪三振0封。
怪物江川はその後も2回戦、準々決勝、と、ものともしません。
そしていよいよ準決勝まで勝ち上がり、その相手はあの達川元監督も正捕手として出場していた古豪広島商。
さすがにいぶし銀の伝統野球です。
徹底的にバットを短く持って江川からしぶとく安打、さらには意表を突いたダブルスチールで敵失を誘うなど、わずかなチャンスに効果的に加点。
終わってみれば、スコアは2-1。
作新学院は惜敗します。
ちなみにこの大会で江川がうちたてた選抜通算60奪三振という前人未到の大記録はいまだに破られておりません。
浪商バッテリー

1979年第51回大会では香川―牛島バッテリーの躍動。
浪速商(大阪)捕手でかなりふくよかな体格のホームランバッター香川(元南海)は当時人気の漫画の主人公と容姿が似ていることから「ドカベン」の愛称で親しまれました。
そして、投手の牛島(元中日・ロッテなど)は対照的にスラッとして甘いマスク。
向こうっ気の強い唯我独尊的なキャラクターで特に女性から絶大な人気を集めました。
彼らは決勝に勝ち進み、箕島(和歌山)に惜敗して準優勝いたします。
新湊旋風

春は“初出場校の健闘が多いこと”でも知られております。
たとえば、初出場校の優勝は全90回中17回。
夏の100回中15回に比べるとその明らかなる割合の高さがうかがえます。
優勝こそ惜しくも逃しましたが、私にとって特に印象深い初出場校の活躍は1986年第58回大会の県立新湊(富山)旋風。
初戦から享栄(愛知。好投手近藤擁する。後中日)、拓大紅陵(千葉)、京都西、と強豪を次々撃破。
地元から駆け付ける大応援団もあいまって大変な話題になりました。
上宮(大阪)無情

高校野球には名実況があります。
「ボールが遠い 逃げていく ボールが逃げていく サヨナラ あまりにもかわいそう」
当時、毎日放送アナウンサー水谷勝海。
1989年第61回大会決勝。
この大会その高校生離れしたプレーと甘いマスクで圧倒的にスポットライトを浴びたのが元木大輔(現巨人一軍ヘッドコーチ)遊撃手です。
御存じの方はとくとご存知の通り、彼はすこぶる個性的なキャラでも有名。
この前年の大会では「隠し玉で1アウトを取る」という珍事をやってのけ、フィールド上でそのまま大はしゃぎしているところをT Vカメラにばっちり撮られ、全国からバッシングされるはめともなりました。
もとい。
上宮の決勝の相手は東邦(愛知)です。
試合展開は、ともに好投手と評判の上宮・宮田(後ダイエー)と東邦・山田(後中日)の熾烈な投げ合い。
9つのイニングのうち、5回に両チーム1点を取り合うだけで、ほかはひたすら0行進が続き、ついに延長戦にまで突入します。
そして10回表に1点を勝ち越したのは上宮。
しかも、その裏守っては東邦打線を2死ランナーなしまで追い詰め、栄冠は目前に迫りました。
ところが、“その一死”が遠いのですね。
東邦は四球・内野安打で意地の連続出塁で、2死1・2塁の局面まで作り上げます。
そして、3番原は初球ねらい。
ボールは右前にフラフラッと、そのままポテンと青い芝生の上に落ち、2塁ランナーは一気に生還、そして……。
東邦1累ランナーが2塁をオーバーランしていたところを上宮守備陣が見逃さず、2・3塁間に挟み込みます。
このまま同点で死闘は11回へ、ともつれこみかけたのですが、3塁手種田(後中日・横浜・西武)の投げた球がそれ、無情にもだれもいない外野の芝生を転々、外野手はそれでも必死に必死に追いかけます。
その間に、1塁ランナーも生還。
この時におこなわれたのが上の実況。
普通、高校野球の実況では片方のチームに肩入れすることは許されません。
しかし、このシーンだけはその素直な心情の吐露が広く人々に感動を呼び起こしました。
済美旋風
2004年第76回大会。
愛媛の済美です。
当時、たんに初出場というだけでなく、ほんの3年前まで女子高でした。
名将上甲監督率いるこのチームは次々と勝ち上がり、準々決勝で好投手ダルビッシュ(後日ハム、レンジャースなど)を擁する前夏準V校東北(宮城)と対戦。
9回表を終わって2-6のビハインドです。
しかし、ここから怒涛の追い上げを見せ、最後はサヨナラ3点本塁打で引導を渡します。
済美はその後も明徳義塾(高知)、愛工大名電(愛知)と全国の強豪相手に接戦をものにし、頂点にまで輝きました。
南こうせつ氏の作詞した校歌のフレーズは人々の耳に感動をもってよくなじみました。
2021選抜高校野球優勝候補
仙台育英(宮城)
東北2回戦〇7-0湯沢翔北
準々決勝〇11-2羽黒
準決勝〇1-0花巻東
決勝〇18-1柴田
選手層の厚さは全国トップクラスです。
147km右腕伊藤、そして142km右腕松田のWエース+186cm左腕千葉、1年生左腕古川、と非常に豊富な投手陣。
扇の要に中学時代準V捕手の木村航大。
また、吉野、渡邊、浅野、秋山など、それぞれに高い能力を持った野手がひしめいており、今春こそ東北に悲願の大旗を持ち帰りたいところです!
健大高崎(群馬)
関東1回戦〇6-1日本航空
準々決勝〇8-1国学院栃木
準決勝〇9-2専大松戸
決勝〇9-7常総学院
関東大会で打線がとても活発だった健大高崎。
昨秋に引き続いて関東大会を制しております。
攻撃では主将の小澤が169cmと小柄ながら、高い野球センスでドラフト候補でもあります。
投手では主戦金子を軸に、桑原、野中、高松などの複数投手起用で連戦を勝ち上がれるでしょうか。
常総学院(茨城)
関東1回戦〇9-0前橋商
準々決勝〇9-1木更津総合
準決勝〇10-0東海大甲府
決勝●7-9健大高崎
かつて横浜ベイスターズで活躍した島田直也が監督として甲子園に帰ってきます!
関東大会では決勝以外全て圧倒しております。
東海大菅生(東京)
東京1回戦〇15-1本郷
2回戦〇10-0目黒日大
3回戦〇10-2桜美林
準々決勝〇5-1日大二
準決勝〇7-5関東一
決勝〇6-1日大三
昨夏東西東京を制しました。
また、秋も競合ひしめく東京で優勝しております。
強力な打線が注目されておりますが、投げる方もサウスポーの本田U15代表であり、総合力は高いです。
敦賀気比(福井)
北信越1回戦〇5-0水橋
準々決勝〇7-4新潟明訓
準決勝〇5-4関根学園
決勝〇16-5上田西
元U15日本のエースである1年生上加世田の成長に期待がかかります。
中京大中京(愛知)
東海準々決勝〇7-0海星
準決勝〇7-0三重
決勝〇7-6県岐阜商
昨秋に引き続いて東海の覇者に。
そして、昨春のセンバツでも優勝候補の筆頭格でした。
優勝へかける思いは並々ならぬものがあるでしょう。
エースは150km超右腕畔柳。
今年も投打にバランスの取れた好チームです。
県岐阜商(岐阜)
東海準々決勝〇7-0東邦
準決勝〇6-0岐阜第一
決勝●6-7中京大中京
名将鍛治舎巧監督のもと、近年レベルの非常に高い岐阜県において、昨年から王者の地位を安定して確立しております。
強打の鍛治舎カラーを甲子園で見せつけるでしょうか。
大阪桐蔭(大阪)
近畿1回戦〇8-0長田
準々決勝〇11-4天理
準決勝〇12-5京都国際
決勝●3-7智辯学園
近畿大会は準優勝ですが、潜在能力自体は全国横綱クラスです。
185cm大型左腕松浦、150km超関戸、元U15代表竹中、などと、投手陣の厚さで右に出るチームはないと思われます。
野手では、星子、花田、小林、海老根などに注目です。
明徳義塾(高知)
四国準々決勝〇5-0英明
準決勝〇9-2鳴門
決勝〇5-1聖カタリナ
高知大会では好投手のいるライバル高知を、四国大会では今年総合力のかなり高い聖カタリナを下し、今秋も四国を制しました。
非常に恵まれた体格で、1年生のころから将来有望視されている左腕エース代木がどのような成長を果たしているでしょうか。
また、右にも183cmの畑中投手がおります。
2021ダークホース一覧
北海(北海道)……北海道の覇者。投打にバランスが取れております。
花巻東(岩手)……東北大会準決勝で敗れたため出場できるかわかりませんが、仙台育英を0-1で苦しめております。
神戸国際大付(兵庫)……近畿大会準々決勝で敗れておりますが、兵庫1位でかなり高い能力を持っていると言われます。
智辯学園(奈良)……近畿の王者です。非常に勝負強く、春になると実力を発揮するチーム。
下関国際(山口)……投打に注目選手が多く、勝負強いチームです。
明豊(大分)……今年は投打にバランスが取れております。
2021選抜高校野球優勝校予想
仙台育英、中京大中京、大阪桐蔭、明徳義塾が特に抜け出た存在。
そこを県岐阜商、関東勢などがどうかき回すか、と言った感じでしょうか。
その中でも、私は大阪桐蔭を予想します。
今年は黄金世代。
春夏連覇も夢ではありません!
ちなみに、今春の21世紀枠は、進学校で左右両投投手のいる土佐塾が選ばれると思います。