『花過ぎ~井上靖覚え書き~』の読書感想文。愛人から見た井上靖。

未分類
スポンサーリンク

井上靖さんを神様のように崇拝しております。

文章自体はとてもわかりやすいのに、大変に美しく、ロマンティック、そして“人間のやるせなさ”に深みがあります。

ただ、私は本書『花過ぎ』を読んで衝撃を受けました。

こんな井上さんにもそれを大きく支える、というより、この人がいなければ井上文学とは成立しなかったのではないか、いや、井上さんは小説で世に出ることもできなかったのではないか、という、実に見過ごすべからざる人の存在を発見しました。

本書は井上靖さん亡き後、その愛人による井上靖さんの覚え書きです。

衝撃の内容がいっぱい出てきます。

『花過ぎ』著者・白神喜美子さんなくば井上文学はあらず?

本書によると、著者・白神喜美子さんが井上靖さんの愛人だった期間は、終戦の年から16年間。

井上靖さんの年表と比べてみると、衝撃です。

なんと、井上靖さんが無名からデビューし、代表作を続々と出していた期間とまったく一致するのです。

こちらが井上靖さんの年表

1949.猟銃

1950.闘牛

1954.あすなろ物語

1955.風林火山

1957.氷壁。天平の甍。

1958.楼蘭

1959.敦煌

1961.小磐梯

1962.しろばんば

ゴッホに弟テオがいたように

ニーチェやリルケにルーザロメがいたように

ホイッスラーにジョアンナ・ヒファーナンがいたように

ゴーギャンにタヒチがあったように

彼女は井上靖というものに何かを覚醒させる不思議な装置であったような、というか、この二人は一人で井上靖たらしめていたような、私にはそう思えてなりません。

意外な暴露。井上靖の本当の姿?

井上文学と言えば

「あのとても上品で清潔で優しい雰囲気でしょう」

と思うのではないでしょうか。

が、本書を読むと、これもびっくり。

実は・・という場面目白押しです。

新聞記者時代は地味だった?

これはおおよそ予想がつくかと思いますが、白神さんによると、新聞記者井上靖は地味な印象だった、と書いております。

が・・

負けず嫌いの勝負師

どうもかなりの勝負師気質です。

まだ戦後まもなくの大変貧乏な頃にたびたび競馬をしに行く癖。

その都度負けていたようです。

また、小説で名を残すことになみなみならぬ意欲を燃やしていたようです。

その分、大変な努力家で、売れっ子時代には毎夜のように徹夜。

この辺はさすがに若い頃柔道で名選手だっただけあります。

最近、芥川賞を取ってもさほど喜ばない人が多いですが、井上靖さんはかなり喜んでおりました。

大岡昇平さんに『蒼き狼』について論争を吹っ掛けられたときは「大岡さんと決闘する」と言っていたとか。

結構怒る?

公然では大人しいですが、内々ではなかなか怒りやすかったようです。

修羅場をきりぬける図太さと手際の良さ

本書の大きな見せ場の一つなのですが、白神さんとふみさん(井上靖さんの正妻)が鉢合わせする修羅場が描かれます。

が、井上靖さんは、なんだかうまいぐあいに事を収めてしまうのですね。

白神さんとの愛人関係はその後も長く長く続いていきます。

どこまで罪作りな男なんだ、、、

白神さんの献身がはんぱない

白神さんは、井上靖さんが名作を作るために、また、作家として大成するために、あらゆる献身を厭いません。

☆井上靖のできたばかりの作品を読んで感想を聞かせてやる

☆井上靖のためにネタを仕入れてきてやる

☆井上靖が大阪から東京に拠点を移すと、自分もついていく(自分の生活費を稼ぐためにダンサーになったこともある)

☆井上靖との間に子供を作ってはいけない身であることを受け入れる

井上靖さんは

「いっしょに作品を生む」ことについて「お前しかいない」

とのこと。

白神さんは持っている

また、この白神さんと言う人は大変に“持っている”人のようです。

井上靖さんが芥川賞を狙っていた時に、自作の二つの作品のうちどちらを推せばいいだろう、となった時、白神さんは『闘牛』を推します。

これが、見事受賞作となり、無名の新聞記者井上靖の文運は一気に開けます。

井上靖は嘘もつく

井上靖さんはしれっと嘘もついてしまいます。

白神さんに少ない手当で愛人をやらせ、自分はいつも

「税金が高すぎてお金がない!」

とぼやいていたかと思うと、白神さんは知人から

「このゴシップ雑誌を見てごらん」

と、そこには井上靖さんが別荘を買ったという記事が・・

『しろばんば』の洪作少年のイメージが・・

井上靖は健康にやたら気を配る

井上靖さんは“長く一線で活躍したかった”のでしょう。

健康にはかなり気を配っていたようです。

徳川家康みたいですね。

たとえば、軽自動車は絶対に乗りません。

なぜなら、事故になった時に危ないから。

白神さんが軽自動車を拾った時、井上靖さんは必ず彼女に「お金をやるから、今すぐその車を返してきなさい」と言ったそうです。

井上靖ファンにはぜひ読んでほしい本書はこちら

白神さんはさすがに井上靖さん最大のアシスタントだっただけあります。

その文章がまた実に井上靖的な味わいがあります。


タイトルとURLをコピーしました