
最近、時代の移ろいはどんどん目まぐるしくなっております。
その大きな原因がイノベーションの逓増化。
そこでたまたま目にして、為になることがなかなか多かった、一つの著作をレビュー紹介します。
清水洋著「野生化するイノベーション~日本経済「失われた20年」を超える」新潮選書。
イノベーションというものがどういう“生き物”なのか
日本社会はどう対応すればよいのか
について見てまいりましょう。
「野生化するイノベーション」レビュー
イノベーションにまつわる法則性を紹介

①イノベーションは野生化する
②イノベーションは移動する
③イノベーションは飼いならせない
④イノベーションは破壊する
⑤イノベーションは逓増する
⑥イノベーションは群生化する
⑦イノベーションのインパクトは時間差で来る
⑧イノベーションへの抵抗がイノベーションの生産性を下げる
少しだけ紹介すると、たとえば②
イノベーションはひとたび起こると、地理的な限定を受けません。
どんどん拡散してゆきます。
インターネットも、核兵器もカラオケも。
人の手では止められません。
「もうなかったことにして」は通用しません。
④は、たとえば、工場ラインシステムができると、工員の大量の雇用を奪います。
また、古い錬鉄技術は大規模な森林破壊を生みました。
⑥は、一つのイノベーションがほかの発明を次々と誘発する、ということです。
システマティックな電車の運行ダイヤができたら、それにあわせて乗客の移動がスムーズになるように自動改札機ができる、バージョンアップする、などと言った具合です。
ひとつのイノベーションはほかのニーズを生み出し、それがまた新たなイノベーションを生みます。
かようにこの著作を読むと、イノベーションの性質をいろいろと学ぶことができます。
イノベーション爆発の今の時代に適したおもしろい著作でした。
日本企業のイノベーションの特徴

①日本企業はもともとイノベーションは低くない
②日本企業はアメリカ企業と比べて企業加齢によるイノベーションの減退がかなり著しい
③日本企業はコア人材の流動性が乏しい
④日本は基礎研究の政府負担が乏しくなってきている
戦後、日本企業のイノベーションは元来、非常に豊かでした。
が、「なぜ急速に退潮してきているのか」について具体的な実証をいろいろと示してくれております。
イノベーションへの向き合い方

①自己責任論は非建設的
②日本の格差拡大は「高所得化」ではなく、「低所得化」が非常に顕著
③日本的雇用による弊害?
④格差の「固定化」
最近日本のイノベーション社会の特徴と、「それにどう対応するか」を政府・企業・個人に対して記してくれております。
著者清水洋さんの経歴
1973年、神奈川生まれ。
一橋大学院商学研究科修士
ノースウェスタン大学歴史学研究科修士
アイントホーフェン工科大学フェロー
一橋大学イノベーションセンター教授
などを経て
早稲田大学商学学術院教授。
『ジェネラル・パーパス・テクノロジーのイノベーション:半導体レーザーの技術進化の日米比較』
で、日経・経済図書文化賞と高宮賞受賞。