
1つパトロンと天才芸術家の関係をとっても、結構いろんなタイプがあるもんですね。
その中でも「これはなかなか対照的だな」と思った組み合わせが2つ。
そのうち1方がこちら。
江戸の超ホワイト大企業の頭取松澤孫八。
と
時代を100年先取りした超前衛画家鈴木其一。
身分制がとても厳重だった世にあって一介の市民から立ったその男の稀代の天才ぶりとそれを支えた豪商の思いを探ります。
もう一方のフレデリック・リチャーズ・レイランドとジェームズ・マクニール・ホイッスラーと比べてみると、文化やキャラ、味わい、の違いが結構際立っておもしろいです。
(フレデリック・リチャーズ・レイランドとジェームズ・マクニール・ホイッスラーの記事はこちら)
鈴木其一の超一流師匠酒井抱一
(引用instagram「月に秋草図屏風」)
鈴木其一(1795~1858)は江戸後期の人。
幼少のころのことはあまりわかっておりませんが、町人の子ではないかといわれております。
其一にとってまず何といっても大きな存在はその師匠である酒井抱一(さかいほういつ。1761~1829)です。
播州姫路藩世嗣の次男として生まれ、若いうちから遊興・放蕩に明け暮れておりました。
まあしかし、彼の粋は大したもので、やがて、琳派と出会い、それを究めて”江戸琳派の祖”とまで呼ばれるようになります。
抱一の作品を見て、何を差し置いてまず迫ってくるのが、見目鮮やかな構図と色の対比です。
やっぱり“琳派”なんですね。
描いている題材自体はごくありふれているのですが、“さりげなく”ダイナミック。
そして、どこかにやっぱり“さりげなく”印象に残る色があるのです。
其一は子供のころからそんな抱一の内弟子にしてもらっていたようです。
そして、次第に頭角を現してゆくのですが。
鈴木其一の恐るべき先見的天才ぶり
この人はさらに大胆!
現代ポップアートをも彷彿とさせるそれはそれは挑発的な構図。
『朝顔図屏風』

朝顔図屏風
幾重にもからみつく朝顔の緑の茎に無数に咲き乱れる蒼い花弁をまといつけた”神霊”のような得体のしれぬアニミズムをも充溢しております。
『群鶴図屏風』
(引用instagram)
これもいい!
かっこいい!
シャレオツ感がすごい!
これが江戸時代の絵というのが信じられません。
当時、世界でもこれほど先駆的なのはないんじゃないでしょうか。
江戸時代の美術ってつくづくすごいですよね。
そりゃ、ゴッホもエミール・ガレもホイッスラーも、みんなほれ込むわけです。
鈴木其一のパトロン松澤孫八とは
鈴木其一のパトロンは「大阪屋」の松澤孫八です。
その屋号通り元禄のころまでは大坂で商いをやっておりましたが、江戸に進出。
もともと漢方薬商だったのが、いつの間にか油を商うようになり、巨万の富を築くようになりました。
将軍家への献上御用金はなんと1万両!
店に出入りする車力や遠方からのお使いまでもがいつでも食事をとれるように、朝から夕方まで食事を完備。
何ならお酒も飲めたようです(※)。
孫八はそんな超ホワイト優良企業の何代目かの頭取さんなのですが、時代は江戸。
表向きはともかく、もう本当のところはその地盤から時代は変わってしまっているのに。
私は其一の作品を見ていると、心なしか、それを買い集め支援した孫八の思いが重なってくるような気がします。
あのどこまでも斬新で挑戦的な……。
時代はいよいよと幕末、明治をむかえてゆきます。
まとめ
①鈴木其一の師・酒井抱一は大名の粋な息子で、“江戸琳派の祖”と呼ばれるほどの瀟洒な画風へと至った
②鈴木其一の画風は世界的にも非常に称賛される江戸美術においても特に前衛的であり、その出来は圧巻である
③鈴木其一のパトロン松澤孫八は当時としてはかなりのホワイト企業の頭取であり、時代はいよいよと侍の世から移り変わろうという最中。孫八の美術への向き合い方はどこか「新時代への気概」を彷彿とさせる。