
ルー・ザロメ(1861~1937)という女性をご存知ですか。
俗には「男を孕ます女」。
ニーチェやリルケなどという知と精神を司る歴史的知の巨人たちと特異なる繋がりを持ち、彼らに眠る天稟を覚醒させました。
原人類まさにエヴァ的な天真爛漫、天性の類稀なる明晰さ、また彼らと共にまみれ尽くして培われた時代最先鋭の膨大確固たる素養と豊饒なる感受性、まるでどこまでもという恐るべき貪婪、……。
私の記憶した中でこれほどに戦慄を覚えた女性というのを他に知りません。
ここでは、そんな彼女の一生を漫画のネーム風にまとめてみました。
- 天才を覚醒させる奇跡の女~ルー・ザロメ~
- ①ルー・ザロメは少女時代、神への信仰をやめ、真実を追い求めるようになった
- ②ルー・ザロメはかなり年上のパウル・レー、ニーチェと“知の同棲生活”をした
- ③若いころのルー・ザロメは“知性そのもの”にとても一途であり、肉体関係にはかなり潔癖だった
- ④ルー・ザロメはニーチェもパウル・レーも振り、これがきっかけでニーチェは代表作を作り、パウル・レーには自殺説がある
- ⑤ルー・ザロメは夫アンドレアス、恋人リルケといっしょに同棲生活を送った
- ⑥リルケもルー・ザロメと別れてから世界的大詩人としてはばたいた
- ⑦ルー・ザロメへの愛で天才に目覚めた男と自殺した男はほかにもたくさんいる
- ⑧ルー・ザロメと心理学者フロイトはとても大人の付き合い
- ⑨ルー・ザロメとフロイトの晩年はナチスドイツによって波乱となる
- ルー・ザロメに関するおすすめ書籍・映画
天才を覚醒させる奇跡の女~ルー・ザロメ~
(場所:イメージ)
ナレーション「古代ギリシャにはミューズという芸術をつかさどる女神たちが存在します。彼女たちは時に人間に霊感を与えます」(ミューズたちの像)
(場所:アパルトマン)
ナレーション「彼女らと同じように多くの天才たちに天才を呼び覚ました奇跡の女性がいます。名はルー・ザロメ。そのあまりに不思議な魅力と生きざまに人々は彼女をこう呼びました」(扉が開く)
ナレーション「ハインベルグの魔女」(床・壁に投影されたルーの影)
タイトル「天才を覚醒させる奇跡の女~ルー・ザロメ~」
①ルー・ザロメは少女時代、神への信仰をやめ、真実を追い求めるようになった

(場所:寝室・夜)
ナレーション「ルー・ザロメはロシアの亡命ユダヤ人将軍の末娘として生まれました。そんな彼女には少女のころ、夜行うひとつのある儀式がありました。“神”との対話です。彼女が問いかけると、“神”はいつも答えてくれました」(ベッドの上のルー少女)
(場所:納屋の前・早朝)
ナレーション「そんなクリスマスの次の朝」
じい「お嬢様!」
ルー「どうしたの…」
じい「見てください」
(雪の積もる納屋の前に濡れた白いドレスと黒いボタンと白いつけひげが散らばる)
じい「お嬢様。どうか怖がらないで聞いてくださいませ。昨夜この納屋に老夫婦がやってこられたんです。それはそれはとても聖なる感じでして。ただね、ここは狭いですから。『ダメですよ。入れません』とお伝えしたのです。そして、そのまま扉を閉めてしまったんですがね。今朝見ると……」
(場所:寝室・夜)
ルー「なぜ、なぜあんなことに…私はあなた様に…。許しを、私に許しを…」
ナレーション「その晩にかぎって神から返ってきた言葉はありませんでした」
(場所:イメージ・夜)
ナレーション「ルー・ザロメが欲しかったのは一言だけだったのですが。『彼らはただの雪だるまだったのですよ』」(夜闇の木枝に積もった雪が落ちる)
(場所:寝室・夜)
ナレーション「以来ルー・ザロメは神を信じることをやめるました。そして、かわりに恋い焦がれたものがあります。真実です」(ルー少女、光を見る)
②ルー・ザロメはかなり年上のパウル・レー、ニーチェと“知の同棲生活”をした

(場所:サンピエトロ大聖堂外)
ナレーション「こんなルー・ザロメがいつまでもキリスト教色の強かった祖国ロシアにいていられるでしょうか。やっぱりいられなくなってヨーロッパ各地を転々。その先に出会ったのが知恵と誇りのカリスマ哲学者、一度は名前の聞いたことのあるあの人です。」(サンピエトロ大聖堂ドーム上に太陽)

(場所:サンピエトロ大聖堂内)
レー「彼が噂の学友、フリードリヒ・ニーチェ氏だ」
ニーチェ「どうぞ、よろしく」

ルー「えぇ、こちらこそ。…お会いできて光栄ですわ!」
(場所:屋内)
ナレーション「こうしてルーはパウル・レーと出会い、彼を介して“ニーチェ”と知り合います。そして、ここからが彼らの不思議です。まさにいい年した男2人と、ずっと年下、娘盛りの美女であるルーは“聖三位一体”の名のもとに知の同棲生活を営むようになるのです。」(ルー、ニーチェ、レー、議論しあう)
③若いころのルー・ザロメは“知性そのもの”にとても一途であり、肉体関係にはかなり潔癖だった
(場所:山)
ナレーション「普通なら『だいじょうぶだろうか?』と思うに違いありません。やっぱりです。それは3人で山を登った時のことです」
ニーチェ「ルー」
ルー「うん?」
ニーチェ「なあ、あっちの木陰でちょっと話さないか」
ルー「いいわよ。レーは?」
ニーチェ「さあ行こう」(レーを見つめる。ニーチェ、歩き出す)
ルー「ちょっと待って!」(ニーチェを追う)
(立ち尽くすレー)
ニーチェ「ルー」
ルー「…何?」
(ニーチェ、ルーに近づきキスしようとする)
ルー「Nein(ナイン。ドイツ語のNo)!」(ニーチェを振りほどき、にらみつける)
ナレーション「ニーチェはこうして恋に破れます」
④ルー・ザロメはニーチェもパウル・レーも振り、これがきっかけでニーチェは代表作を作り、パウル・レーには自殺説がある

(場所:屋内)
ナレーション「すっかり打ちのめされたニーチェは自殺をも考えます。しかし、思いとどまり、一念発起して書き上げたのが代表作『ツァラトゥストラはこう語った』です。」(ニーチェ、執筆する)
(場所:崖)
ナレーション「一方のパウル・レーもルー・ザロメへの愛はやはり報われることはありませんでした。彼は数年後崖から転落死します」(レー、崖から落ちる)
ナレーション「一説には自殺ではないか、と今もささやかれ続けております」(レー、倒れている)
⑤ルー・ザロメは夫アンドレアス、恋人リルケといっしょに同棲生活を送った

(場所:森の中)
ナレーション「しかし、ルー・ザロメの“愛”がこれで終わったわけではありません。また、新たな出会いを見つけます」
(晩秋の森の中、リルケ、木に寄り添い、手で触れ、見上げる。木の葉が落ちてくる。リルケ、メモを取る)
ルー「どう?」
リルケ「うん」

↑ライナー・マリア・リルケ
ナレーション「彼の名はライナー・マリア・リルケ。皮肉なことにこのころのルー・ザロメは出会った時のニーチェと同い年ぐらい。リルケは当時のルー・ザロメと同い年ぐらいです。
(リルケ、メモをルーに渡す。ルー、メモを読み、リルケと目が合いほほえむ)
ナレーション「そして、慕いあう2人はまたある奇妙な行動に出ます」
(場所:ロッジの前)
(アンドレアス、薪を割る)

↑フリードリッヒ・カール・アンドレアス
ナレーション「彼はアンドレアスです。ルー・ザロメの夫です。おや?ルー・ザロメは“真実”に一途だったんじゃなかったの?と思うかもしれません。ただ、この結婚には理由があります」
(場所:屋内・夜)
ナレーション「アンドレアスも元々将来有望の学者です。が、ルー・ザロメと知り合ってからのある晩」
アンドレアス「僕と結婚してくれ。さもないとこうだ!』(自分の胸をナイフで突く)
ルー「!」
(場所:ロッジの前)
ルー「正直、結婚するしかなかったわね。ただ、彼はそんな私のことをちゃんと分かってくれたわよ」(食材いっぱいの手提げかごを下げている)
アンドレアス「ああ、私もね。そりゃ、負い目はあったさ。でも、そういう彼女の無垢な奔放さが好きだったんだ。だから」(薪を結束しながら、顔を向けず、手だけで挨拶)
ルー「ふつうではちょっと考えられないような夫婦生活だったわよね」
アンドレアス「ああ」(ルー、アンドレアスを通り過ぎる)
(場所:ロッジ内)
ルー「この人は本当にどこまでも一途であやうげでほっとけない少年ね。ま、ニーチェやレーもあのころ私のことをそう思ってたのでしょうけど」(台に置いて手提げかごを物色)
リルケ「正しく君は女性とはまた違う生き物だ」(手提げかごからじゃがいもを1つ取り出す)
アンドレアス「その通りだ」(ルーとリルケを後ろから見つめている)
⑥リルケもルー・ザロメと別れてから世界的大詩人としてはばたいた

(場所:船上)
(大河を行く大型船の甲板の上)
ルー「私たち3人でわが祖国ロシアを旅したわね(帽子を手でおさえ、欄干から眺めている)
アンドレアス「ああ」(壁によっかかって居眠り)
リルケ「あれは素晴らしい旅だった。大地というものを大いに思い知らされた」(立って眺める)
ルー「で、あなたは去っていったわね」(欄干にとまる小鳥を眺める)
リルケ「心外だな。振ったのは君の方だろ。でもこういう関係が僕たちだ」(ルー、リルケ、飛んで行く小鳥を見つめる)
(場所:講義室内)
リルケ「君のアドバイス。あれは効いたね。これで僕はない金にさいなまれず詩作に没頭することができるようになった」(講義する)
(場所:書斎・夜)
アンドレアス「リルケ君、君は先生になったのだね」(執筆する)
ルー「私はこれでも女性なのよ(小笑)」(後ろから見つめる)
アンドレアス「確かに。この中でいつまでも大人になれないのは僕だけかな」(手を止め、振り向く)
ルー「いいや、私たちはみんなどこか“この世のもの”じゃないのよ。ニーチェもレーも。だから惹かれあうの」(微笑)
アンドレアス「いいなあ。君に愛される人はみんな羽ばたいてゆくよ」(微笑)
⑦ルー・ザロメへの愛で天才に目覚めた男と自殺した男はほかにもたくさんいる

↑ゲアハルト・ハウプトマン
(場所:屋内)
ナレーション「ルー・ザロメはリルケと別れてもまだまだ“真実”への愛は収まりません。あいかわらず“知識人”たちに自分から積極的にどんどん近づき、またいつものように男たちは次々と彼女の虜になってゆきます。ピネレース。ビエレ。タウスク。プファイファー。……。あるものは才能を目覚めさせ、またある者は自殺してしまいました」(男たちのサロン中のルー・ザロメ)
ナレーション「のちにノーベル文学賞を取る喜劇作家のハウプトマンも彼女と関係を持った一人です。そして、また一人ものすごいビッグネームが…」(ハウプトマン、ルー・ザロメに話す)
⑧ルー・ザロメと心理学者フロイトはとても大人の付き合い

(場所:診察室内)
ルー「先生、本日もよろしくお願いいたします」
フロイト「ああ」(椅子に腰掛けている)
ナレーション「彼はジークムント・フロイト。精神心理学の祖と言われる人です」
フロイト「どうです。最近何か変わったことは」
ルー「ええ、おかげさまでプライベートでは特に。ただ、なんですけれど」(持っていたハンドバッグから紙束を出す)
(フロイト、コーヒーを啜る)
ルー「先日から申しあげておりました。これを先生に読んでいただければうれしいのですけれど」
(フロイト、眼鏡をかけ、中身を物色する)
フロイト「…なかなか興味深そうですね。またじっくりと」
ルー「ええ」(微笑)
ナレーション「二人は医者と患者。というより、教授と研究対象と言った方がよいでしょう。ルーも若いころとは違い、フロイトとはものすごく大人の関係です。まるで波風の立たないどこまでも淡々としたものでした。ただ、そんな二人の静けさとは裏腹に」(机上のコップの中のコーヒーに微かに波紋が立っている)
⑨ルー・ザロメとフロイトの晩年はナチスドイツによって波乱となる
(場所:軒先)
ナレーション「取り巻く世界はまさに激動の時をむかえていたのですが」(軒先に翻るナチス鍵十字旗)
ルー・ザロメに関するおすすめ書籍・映画
私としてはルー・ザロメに関する書籍の中でこちらが一番読みやすく、また参考になりました。
↓ルー・ザロメのとても謎めいて魅惑的な生涯についてまとめた一大作です。
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↓また、残念ながら私はまだ見ていないのですが、こちらの映画はなかなか好評なようです。
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