【小説】島原の乱~原城陥落~

歴史
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私の書いている長編小説から抜粋して一節。

原城陥落です。

登場人物

四郎・・・口之津新開の百姓。

天草四郎

弥五郎・・・新開の四郎の父

森宗意・・・一揆軍参謀の一人。かつて欧州に漂泊した経験のある医者、軍学者。

原城陥落

敵味方入り乱れる最中、新開の四郎は腹を撃ち抜かれ気息奄々となった弥五郎を傍で看取りながら、

と何やら思い立ち、

「四郎様に会って来る」

 と言い放った。

「総大将四郎様に会って来るんだ」

 弥五郎は何やら安心した面持ちで、微かに頷きを打っていた。四郎は弥五郎の肩に掌をそっと載せた。そして振り向き、走り出した。四郎は何度か味方に「何をやっているのだ」とその足を止められそうになったが、その都度、振り切って走り抜けた。今、本陣に近づくのは却って危ない。

「敵と間違って撃たれる」

と注意も受けた。

無様な死に方だけはするな。

だが、それでも四郎が意に介することは一切なかった。その時を不気味に待ち受けている虎口や小路の数ある狭間の下をただ一目散に走りぬいた。不思議と一発の矢玉も放たれることはなかった。やがて男たちに、

「これより先は本陣総大将天草四郎様の御座所なるぞ」

と槍で止められた。

「四郎様に会いたい」

「何をぬかすか。ここは汝のようなガキの来るところじゃない。早々に帰れ」

「俺の名は四郎というんだ。四郎様と友達なんだ」

「四の五のと喚くな。汝には汝の持ち場があろう。その場に帰れ。さもなくばこうだぞ」男は槍の穂先をこちらへとちらつかせている。

「会わせてくれ。これでは死んでも死に切れぬ。話がしたいんだ」

 男は、

「ふざけたことをぬかすな」

と大音声で叱りつけた。

「己には己の領分がある。それを弁えよ。城中の者が皆死を賭して戦っている。こんな時に」

汝も城中の者なら城中の者らしい働きをしてみせい。

すると、ふと、

「あ、四郎様」

四郎様、こっちい、こっちい、と手を振ると、紅一色に甲冑を纏ったその人が気づいたらしく、

「四郎様、以前長崎で会った四郎です。人買いから助けられた」

 紅の四郎もすっかり思い出したらしく、

「あ、あの節の」

 と、兆度そんな折、「四郎殿」と黒髪に粉雪をまぶしたような総髪を束ね、黒糸縅の鎧老武者が部隊を率い現れた。

「宗意殿!」

「おうこれは」

 と、老武者は歩み寄ると、

「拙者にも今生一番の働き場所が来た。ちいと下で暴れて参る」

その革めて見事な晴れ姿、もし自分にも孫がいるならかほどの年頃になっていようか、と心中深く嘆じた。

「今まで誠に世話になった」

いいえ、こちらこそ。

 二人は暫し抱擁し合った。宗意は心の中でこう語った。

(本当ならお主を勝たせてやりたかった)

解けると宗意は、

「Alleluia」

 と、右手を軽く掲げ、部隊を引き連れていなくなった。

 この男の戦は今生の最後の最後まで負け戦だった。

「二人にしてくれ」

 と四郎たちは陣屋深くへと入ってゆくと、

「最近じぇずす様を思うんだ。あの方は最期まで己を除くあらゆる人の身を傷つけることはなかった。確かに時代が違う。世を負わねばならなくなった歳頃も違う。もう少し早く生まれていればもっと違う世の救い方があったのかもしれない」

 死に過ぎたよ。敵も味方も。

「あっしじのさんふらんしすこ様もさんじぇろにも様もこんなやり方は為されない。私はきっと地獄(いんへるの)に落ちる。男も女も老いも幼きもみんなみんな、私を信じた者はみんな地獄(いんへるの)に落ちる」

 私は騙していたのか。付き従うみんな、君も、そして、私も。怖いんだ。怖くて仕方ないんだ。

「心配はいらないよ。怖いのならこっちだって同じだ。許すよ。君を許す。主(じぇずす)様はそうおっしゃった。人は皆恐れているんだ。そして、時折何が真理かは分からなくなる。誤ることもある。だけど、我々は友だ。その恐れを許す。明らかざるを許す。共に主(じぇずす)様の道を歩もう。御許へと近づくんだ。我らが天国(ぱらいぞ)へ」

「まるで君は本当のじぇずす様のようだ」

 愛なくば何らの益なし。

 愛を以て強く忍び、

 愛を以て深く慈しみ、

 妬まず、

 愛を以て驕り高ぶらず、

 礼を失せず、

我欲に捉われず、

苛立たず、

恨まず、

不義に喜ばず、

真理を喜ぶ。

全てを忍び、

全てを信じ、

全てを望み、

全てに耐える。

愛の滅びることはない。

「あなた様のお恵みが常に私と我が愛する全てにありますように。アーメン」

 山から山へ桜が満開の季節だった。

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